今回は、なぜ日本企業が衰退してしまったのか?との話をします。
「J-SOX」から始まった「名ばかり内部統制ごっこ」。
日本企業が衰退した要因のひとつは、この15年間の「名ばかり内部統制ごっこ」です。
今を遡ること20年ほど前。世界を揺るがせたエンロン事件をキッカケに、2002年に米国で「SOX法」が制定されます。そして、「コーポレートガバナンス(内部統制)」という言葉が盛んに使われるようになりました。
2008年には、日本版のSOX法として「J-SOX」が導入されました。それからというもの、大量の形式だけの書類作業(最近流行りの言葉だと『ブルシットジョブ』=クソどうでもいい仕事)が、「自称・仕事」を生んでしまい、そのため多くの雇用を必要とし、企業のリソースを食ってきました。J-SOXを守るために、企業は身動き取れない状態になっていたわけです。皮肉。
さらに、「稼げるかもしれないけど、統制(とコストカット)ができない人」は、決して“えらい人”になれなくなりました。これは致命傷でしたね。
→SOX法とJ-SOXについては、第4回でも書いています。
欧米の内部統制は「性弱説」、日本は「性善説」。
さて、本家の「SOX法」、つまり内部統制は、『性弱説』に基づいています。性善説でも性悪説でもなく、性弱説。
これはどういうことかと言いますと、基本的に「ヒトはみな弱い」と考えられています。従業員も役員も関係なく、ヒトだから弱い。
だから、
1.動機
2.対象
3.チャンス
4.正当化
この4つの条件が揃うと、誰でも悪いことをする、と考えられています。だってヒトは弱いから。
そのため、この4つをコンプリートさせない仕組みを作って、従業員と役員をダークサイドに転落することから守らないといけない。それが会社の義務なんだ!!
というのが、本家の欧米の「内部統制」の考え方です。
しかし、この観点でいうと、日本は『性善説』なんですよね。
「悪いことをするのは、ごくごく例外的な悪い人だけ」という建前になっています。「あなたも私も、4つの条件が揃うと、悪いことをするかもしれませんよ」という本当のことは、決して口にできません。
決してガチで取り組んではいけない、「名ばかり」の「ごっこ」。
この15年を経て、内部統制は「形骸化した」とよく言われます。しかし、それは違います。
15年前に米国のSOX法をコピペした最初の段階から、「名ばかり」の「ごっこ」なのです。名ばかり内部統制ごっこ。形骸化する前のまともなモノなんて最初からなかったんです。
「なんかよくわかんないけど、やらないと怒られるらしいから」
「こんなのアホですよね。でもまあとにかく、やっときゃ良いんですよね」
こんな会話があちこちから聞こえてきた内部統制。最初からブルシットジョブとして生まれ、ブルシットジョブとして今に至っているのです。
そして、「名ばかり」の「ごっこ」とはいえ、やってる感だけは出す必要がありますが、間違ってもガチで取り組んではいけない。
「お互いを見張り合っていることが、お互いのためなんだよ」
そんなガチなことを言おうものなら、
「ひどい!ボクは傷つきました(T_T)」
「お前は!うちの!大事なボクちゃんを!不審者扱いするのか!!!!」
と、筵旗(むしろばた)を付けられ、あなたのキャリアは終了です。
筵旗(むしろばた)は江戸時代に百姓一揆などに使われた、むしろを竹竿などに結びつけて旗としたものですが、まさにこの旗めがけて一揆を起こされて終わりなわけです。
この15年のJ-SOX の末路とは?
J-SOXが日本にやってきてから、不正を防ぎ、統制を取るために、何ごとにも上司の許可が必要になりました。「中間管理職が事前に承認したことだけやってよい」とルールで決められている組織もあるでしょう。
しかし、それも「名ばかり」です。誰も事前承認なんてしません。
自称マネジャーたちは堂々と「部下の性善を信じなければならない」など、陳腐な正当化を口にして、事前承認なんてしないのです。
そして、月末や期末になり、気づけばバックデートの書類が大量生産されていることになります。それらの書類に派遣社員さんがノールックハンコをおし、別の部署の派遣社員さんがノールックのままファイルして書庫に送る。このノールックプリントゴッコのために派遣社員さんが雇われている。
まさに、ブルシットジョブ。これが「仕事」とされてきました。
この15年のJ-SOXの末路です。
そして、おそらく「プライバシー」と「感染拡大防止」も同じ道をたどるでしょう。
繰り返しになりますが、これらで大事なのは「やってる感」だけです。「どうしてこれをやらなくてはいけないの?」なんて本質的な疑問を持つようでは、組織で「えらい人」になれません。雇われることすら難しいかもしれません。
ヒトは「性善」でも「性悪」でもなく「性弱」。
内部統制を考えるとき、もう一度この原点に戻る必要があると感じています。